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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)4208号 判決

ノルウエー国ヘルダールN五二三二

原告

パテンツ・エンド・デベロープメント・エー・エス

右代表者

トロンド・モーン

右訴訟代理人弁護士

藤本博光

吉武賢次

大西真子

神谷巌

右輔佐人弁理士

猪股清

山口県熊毛郡田布施町大字下田布施第二〇九番地の一

被告

大晃機械工業株式会社

右代表者代表取締役

木村貞明

右訴訟代理人弁護士

雨宮正彦

右輔佐人弁理士

瀧野秀雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙目録記載のポンプ装置を製造、使用、譲渡、貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。

2  被告は、原告に対し、金三七五〇万円及びこれに対する昭和五七年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  右第一、第二項について仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。

発明の名称 ポンプ装置

出願日 昭和四三年一〇月一七日

出願公告日 昭和四六年六月一八日

登録日 昭和四七年二月一八日

登録番号 第六三五四七二号

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

「船の流体貨物のなかに設けて、これを送るためのポンプ装置において、水力モータと、回転子と、前記水力モータと回転子とを連結する比較的短い駆動軸と、前記回転子の運動により吐出される流体貨物を船の甲板に導く導管と、前記流体貨物と流体モータの駆動媒質を確実に分離する地帯とを有してなり、前記地帯は前記駆動媒質および流体貨物の圧力よりも低圧であつてかつ前記圧力差の結果として前記媒質もしくは流体貨物の生じ得べき漏れ分をすべて受けるようにされるとともにその漏れ分の除去を制御する手段を備え、また前記地帯は、排出室と一端がこの排出室に他端が大気に連通する減圧通路とを含み、前記排出室は、回転子とモータとの間において駆動軸上に配置された第一組のパツキンおよび第二組のパツキンの間におかれ、第一組のパツキンは流体ポンプ媒質に対する密封機素を成し、第二パツキンは駆動媒質に対する密封機素をなすようにしたポンプ装置。」(別添特許公報の特許請求の範囲の欄参照)。

3(一)  本件発明の構成要件を分説すれば次のとおりである。

(1) 水力モータと、

(2) 回転子と、

(3) 前記水力モータと回転子とを連結する比較的短い駆動軸と、

(4) 前記回転子の運動により吐出される流体貨物を船の甲板に導く導管と、

(5) 前記流体貨物と流体モータの駆動媒質を確実に分離する地帯とを有してなり、

(6) 前記地帯は、

(イ) 前記駆動媒質および流体貨物の圧力よりも低圧であつてかつ前記圧力差の結果として前記媒質もしくは流体貨物の生じ得べき漏れ分をすべて受けるようにされるとともに、

(ロ) その漏れ分の除去を制御する手段を備え、

(7) また、前記地帯は、

(イ) 排出室と、

(ロ) 一端がこの排出室に他端が大気に連通する減圧通路とを含み、

(8) 前記排出室は、回転子とモータとの間において駆動軸上に配置された第一組のパツキンおよび第二組のパツキンの間におかれ、

(9) 第一組のパツキンは流体ポンプ媒質に対する密封機素を成し、

(10) 第二組のパツキンは駆動媒質に対する密封機素をなすようにした、

(11) 船の流体貨物のなかに設けて、これを送るためのポンプ装置。

(二)  本件発明の作用効果は次のとおりである。

船内の流体貨物―例えば高級ウイスキーやワイン、植物油から硫酸、燐酸、アンチノツク剤等まで―の中にポンプ装置をいれてこれらを送る際、流体貨物内にモータ駆動油が混入すると、例えばウイスキーやワインは飲用に供せられなくなり、船主は多大の損害を被る。また、硫酸やアンチノツク剤がモータ駆動油に混入すると甲板でパルプを操作する乗組員が危険にさらされることになる。したがつて、流体貨物にモータ駆動油が入ることも、モータ駆動油に流体貨物が入ることも絶対に避けなければならない。本件発明は、この課題を解決するため提案されたもので、その目的及び作用効果はモータの駆動媒質と汲み上げられる流体貨物とを確実に分離絶縁し、汲み上げられる流体貨物がモータの駆動媒質によつて汚染されるのを防ぎ、またモータの駆動媒質が汲み上げられる流体貨物によつて汚染されることを防ぐようにしたことにある。即ち、モータ駆動媒質と流体貨物の間に「地帯」を設けてこれら両者を分離しているので、例えば動揺、腐蝕等の原因により水力モータの圧力液循環パイプが破損して圧力油(モータ駆動媒質)が漏れた場合にも圧力油は地帯の中に止まり、流体貨物の中へ漏れるのが防がれる。地帯の中へ漏れが生じる場合にも、「地帯」はモータ駆動媒質及び流体貨物の圧力よりも低圧に構成されているため、これらの漏れ分を受け入れるが、「地帯」の中に入つた漏れ分は、より圧力の高いモータ駆動媒質または流体貨物の万へは進み得ないので、これら両者の混合が避けられる。特に、駆動軸の部分は回転するため、この部分の機密を完全にすること、即ち、漏れ分を絶無にすることは現在の技術をもつてしては不可能である。そこで、駆動軸の部分については、地帯の一部として特に排出室を設け、この部分は減圧通路により大気に連通させている。更に排出室を含む地帯の中へ漏れた漏れ分は適当な漏れ分除去手段により除去される。このような作用効果を有する。

4  被告は、業として別紙目録記載のポンプ装置(以下、「被告装置」という。)を製造、販売している。

5(一)  被告装置の構成を分説すれば次のとおりである(被告装置に関する番号は別紙目録記載のものを指す。以下同じ)。

(1)' 油圧モーター2と、

(2)' インペラ20と、

(3)' 前記油圧モーター2とインペラ20とを連結する比較的短いポンプ軸21と、

(4)' 前記インペラ20の運動により吐出される流体貨物を船の甲板に導く吐出管22と、

(5)' 前記流体貨物と油圧モーター2の駆動油を確実に分離する連通した空間A(保護管3及び上部ケーシング1内の空間)、B(ベアリングハウジング8と中間部ケーシング11との間の空間)及びC(Oリング14及びメカニカルシール15、16により密封された下部ケーシング内の空間)を有してなり、

(6)' 前記連通した空間A、B及びCは、

(イ)’ 大気圧であり、

(ロ)’ 保護管3内の空間に開口し前記連通した空間A、B及びCに加圧した気体を送る連結管25と、空間Bの底部に開口し他端が船舶の甲板上に導かれ開放された第二ドレン管7と、空間Cの底部に開口し他端が船舶の甲板上に導かれ開放された第三ドレン管18とを備え、

(7)' また、前記連通した空間A、B及びCは、

(イ)’ 排出室Cと、

(ロ)’ 一端がこの排出室Cの底部に開口し、他端が船舶の甲板上にて開放された第三ドレン管18内の通路とを含み、

(8)' 前記排出室Cは、インペラ20と油圧モーター2との間においてポンプ軸21に配置されたメカニカルシール15及びメカニカルシール16の間におかれ、

(9)' メカニカルシール16は流体貨物に対する密封機素をなし、

(10)' メカニカルシール15はモーター駆動油に対する密封機素をなすようにした、

(11)' 船の流体貨物のなかに設けて、これを送るためのポンプ装置。

二  被告装置の作用効果は次のとおりである。

被告装置の目的及び作用効果はモータの駆動媒質と汲み上げられ流体貨物とを確実に分離絶縁し、汲み上げられる流体貨物がモータの駆動媒質によつて汚染されるのを防ぎ、またモータの駆動媒質が汲み上げられる流体貨物によつて汚染されることを防ぐようにしたことにある。即ち、モータ駆動媒質と流体貨物の間に連通した空間A、B及びCを設けてこれら両者を分離しているので、何らかの原因により油圧モータの圧力液循環パイプが破損して圧力油が漏れた場合にも圧力油は空間A、B及びCの中に止まり、流体貨物の中へ漏れるのが防がれる。連通した空間A、B及びCの中へ漏れが生じる場合にも、連通した空間A、B及びCは大気圧、即ちモータ駆動媒質及び流体貨物の圧力よりも低圧に構成されているため、これらの漏れ分を受け入れるが、連通した空間A、B及びCの中に入つた漏れ分は、より圧力の高いモータ駆動媒質または流体貨物の方へは進み得ないので、これら両者の混合が避けられる。また、ポンプ軸21の部分については空間A、B及びCの一部として特に排出室Cを設け、第三ドレン管18により大気に連通させている。また排出室Cの中へ漏れた漏れ分は連結管25を介して供給される圧力空気またはイナートガスにより第三ドレン管18を通して除去され、空間A及びBの中へ漏れ分は同様にして第二ドレン管7を通して除去される。

6 被告製品は、以下に述べるとおり、本件発明の技術範囲に属する。

(一)  本件発明の構成要件と被告製品の構成とを対比すれば次のとおりである。

(1) (1)と(1)'の比較

「油圧モーター」は水力モータの一種であるから、(1)'は(1)と同一である。

(2) (2)と(2)'の比較

(2)の転子は遠心ポンプの回転子であるところ、(2)'の「インペラ20」も遠心ポンプの回転子であるから両者はまつたく同一である。

(3) (3)と(3)'の比較

(3)も(3)'も「水力モータと回転子とを連結する比較的短い駆動軸」であつて、まつたく同一である。

(4) (4)と(4)'の比較

(4)も(4)'も「回転子の運動により吐出される流体貨物を船の甲板に導く導管」でありまつたく同一である。

(5) (5)と(5)'の比較

(5)'は「流体貨物と流体モータの駆動媒質を確実に分離する空間」ということができるから、(5)と同一である。

(6)(イ) (6)(イ)と(6)'(イ)’の比較

連通した空間A、B及びCは大気圧であるところ、駆動油及び流体貨物の圧力よりも低圧であり、かつ右圧力差の結果として前記駆動油もしくは流体貨物の生じ得べき漏れ分をすべて受けるようにされるので、(6)'(イ)’は(6)(イ)とまつたく同一である。

(6)(ロ) (6)(ロ)と(6)'(ロ)’の比較

空間AまたはBに漏れた漏れ分は空間Bの底部に集められ、連結管25から空間A、B及びCに圧力気体を送つて、該漏れ分を第二ドレン管7を通じて除去する(この場合、第三ドレン管18の止め弁は閉じられている。)空間Cに漏れた漏れ分は空間Cの底部に集められ、連結管25から空間A、B及びCに圧力気体を送つて、該漏れ分を第三ドレン管18を通じて除去する(この場合、第二ドレン管7の止め弁は閉じられている。)。したがつて、(6)'(ロ)’は「その漏れ分の除去を制御する手段」に相当し、(6)(ロ)とまつたく同一である。

(7)(イ) (7)(イ)と(7)'(イ)’の比の比較

(7)(イ)も(7)'(イ)’も「排出室」でありまつたく同一である。

(7)(ロ) (7)(ロ)と(7)'(ロ)’の比較

第三ドレン管は一端が空間Cに他端は船舶の甲板上にて開放されている通路であるから(7)'(ロ)’は(7)(ロ)とまつたく同一である。

(8) (8)と(8)'の比較

(8)'は、「排出室は、回転子モータとの間において駆動軸上に配置された第一組のパツキン及び第二組のパツキンの間におかれ」ているので、(8)とまつたく同一である。

(9) (9)と(9)'の比較

(9)'は、「パツキンは流体ポンプ媒質に対する密封機素をなし」ているので(9)とまつたく同一である。

(10) (10)と(10)'の比較

(10)'は、「パツキンはモータ駆動媒質に対する密封機素をなすようにし」ているので、(10)とまつたく同一である。

(11) (11)と(11)'の比較

(11)'は、「船の流体貨物のなかに設けてこれを送るためのポンプ装置」でありまつたく同一である。

二  以上のとおり、被告装置は本件発明のすべての構成を充足しており、その作用効果も本件発明と同一であるから、本件発明の技術範囲に属する。

7 被告は、本件特許権を侵害するものであることを知りながら、もしくは過失によつてこれを知らずに被告装置を製造、販売したので、これにより原告の被つた後記損害を賠償する義務がある。

ところで、被告は昭和五六年一〇月ころから被告装置を製造し、株式会社栗之浦ドツクに対し、少なくとも、代金総額一億五〇〇〇万円で二一台販売したが、被告の右各行為により得た利益は販売価格の二五パーセントに相当する金三七五〇万円であるといえるから、原告は右同額の損害を被つた。

8 よつて、原告は被告に対し、本件特許権に基づき、被告装置の製造、使用、讓渡、貸渡しまたは讓渡、貸渡しのための展示の差止を求めるとともに、原告が被つた損害の賠償金三七五〇万円及びこれに対する不法行為後である昭和五七年四月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1、2、3(一)及び4記載の事実は認める。その余の事実は否認する。

三  被告の主張

1  構成要件(6)(イ)について

被告装置における空間A、B及びCは、本件発明にいう「流体貨物と水力モータの駆動媒質を現実に分離する地帯」に該当するといえるが、その内部の圧力は駆動媒質及び流体貨物のいずれの圧力よりも高く設定されているので、被告装置は本件発明の構成要件(6)(イ)を充足しない。

即ち、本件発明においては、モータの駆動媒質と積荷である流体貨物を確実に分離する地帯を設け、この地帯の圧力を駆動媒質及び流体貨物のいずれの圧力よりも低くすることを要件としているのに対し、被告装置においては、保護管3及び上部ケーシング1内の空間A、中間部ケーシング11内の空間B、下部ケーシング13内の空間Cは連通しており、その各部はいずれも、流体貨物を積載した場合には、船内に配管された圧力空気供給管またはイナートガス供給管より圧力空気またはイナートガスが封入されて、モータの駆動媒質及び積荷である流体貨物のいずれの圧力よりも高圧に設定され、このように高圧に設定されることによりベアリングハウジング8内の漏油が空間Cに漏れ、または積荷が下部ケーシング13内へ侵入、さらに保護管3、上部ケーシング1、ベアリングハウジング8、中間部ケーシング11、下部ケーシング13のそれぞれの液密連結に不良が生じても積荷が空間A、B及びCに侵入することを防止しているものであり、また万一異常時に漏れた油及び積荷は、空間Bまたは空間Cの底部に貯留するようになつている。

また、被告装置の取扱説明書の「ポンプ内封入空気(又はガス)」の項には、「保護管八〇二、モーターカバー八〇一の中の空間Aには常に周囲圧力より高い圧力で最大圧力二・五kgf/cmの空気又はイナートガスを充満しておく(連続供給可能である)」「空間Bは常時空間Aと同じ圧力空気」というように記載され、右は、少なくとも積荷が存在するかぎり空気を充満しておく趣旨であつて、被告装置は実際このように使用されている。

2  構成要件(7)(イ)及び(8)について

被告装置は次のとおり本件発明の構成要件(7)(イ)及び(8)を充足しない。

本件発明において、「排出室」は、(1)回転子とモータとの間において駆動軸上に配置された第一組のパツキン及び第二組のパツキンの間に置かれ、かつ(2)この排出室の内部がモータの駆動媒質及び流体貨物のいずれの圧力よりも低圧に設定され、(3)駆動媒質及び流体貨物の漏れ分をすべて受けるように構成されたものである。本件明細書記載の実施例でいえば、「排出室55」がこれに相当し、「排出室55」はパツキン51・52とパツキン53・54との間に置かれ、駆動媒質及び流体貨物のいずれよりも低圧とされることにより生じ得べき駆動媒質及び流体貨物の漏れ分をすべて貯留すると共に、他に漏出しないようにされている。

これに対し被告装置においては、前記(1)、(2)、(3)の要件をすべて具備した部分は存在しない。なるほど、駆動媒質及び流体貨物の生じ得べき漏れ分を受けいれるように構成された部分としては、空間Bまたは空間Cがこれに該当するが、空間B及び空間Cのいずれも二組のパツキンの間に置かれておらず、流体貨物を積載した状態において、モータの駆動媒質及び流体貨物のいずれの圧力よりも高圧に設定されていて、これらの圧力より低圧とはなつていないものである。

したがつて、被告装置はそもそも本件発明にいう「排出室」を具備しておらず、本件発明の構成要件(7)(イ)を欠如するものといわざるを得ない。

ところで原告は、被告装置における「空間C」が本件発明にいう「排出室」に該当し、被告装置の「メカニカルシール16」及び「メカニカルシール15」がそれぞれ本件発明にいう「第一のパツキン」及び「第二のパツキン」に該当するというが、空間Cはベアリングハウジング8の下部に連結された下部ケーシング13によつて形成されているものであつて、前記のとおりメカニカルシール16とメカニカルシール15との間に置かれているものではない。むしろ逆に空間Cの内部にメカニカルシール16及びメカニカルシール15が配置されているのである。したがつて仮に被告装置の空間Cが本件発明にいう「排出室」に該当するとしても、この「排出室」は第一組のパツキン及び第二組のパツキンの間に置かれていないから、被告装置は本件発明の構成要件(8)を充足しないというべきである。

3  構成要件(7)(ロ)について

被告装置は次のとおり本件発明の構成要件(7)(ロ)を充足しない。

本件発明にいう「一端がこの排出室に他端が大気に連通する減圧通路」とは、本件明細書記載の実施例でいえば、「漏れ分の除去を制御する手段」の主たる構成要素をなす吸上げパイプ71、エゼクタパイプ72、圧力空気または蒸気の送りパイプ73、排出管74等をさすものであることは前記のとおりであり、排出管及びその近辺に集められた駆動媒質または流体貨物の漏れ分を負圧を利用して吸上げるためのものである。しかして本件発明において、右減圧通路は、流体貨物と駆動媒質を確実に分離する地帯に包まれるものであることは明らかである。

これに対し、被告装置においては、仮に、空間Cが「排出室」に該当するとすれは、一端が空間Cに他端が大気に連通する通路としては第三ドレン管18がこれに該当し、また第三ドレン管18は、空間Cの底部に貯留された駆動媒質及び流体貨物の漏れ分を外部に排出するための通路である。しかしながら、被告装置においては、右漏れ分を負圧を利用して吸い上げるものではなく、空間Cに封入された高圧気体の放出に伴い、該気体中に右漏れ分を混合して排出するものである。

よつて第三ドレン管18は本件発明にいう減圧通路に該当するものではない。

また、仮に第三ドレン管18が減圧通路に該当するとしても、流体貨物と駆動媒質を確実に分離する地帯に包まれていない。

即ち被告装置において、流体貨物と駆動媒質を確実に分離する地帯は空間A、B及びCであるが、第三ドレン管18は右各空間を通つておらす、右空間とは独立しているものであつて、この点において本件発明とは構成を異にするものである。

よつて被告装置は本件発明の構成要件(7)(ロ)を充足しない。

四  被告の主張に対する原告の反論

構成要件(6)(イ)について

被告装置において連通した空間A、B及びCは大気圧であり、駆動油及び流体貨物は大気圧より高圧であるので、 被告装置は本件発明の構成要件(6)(イ)を充足している。

1  そもそも被告装置は空間A、B及びCに圧力をかけなくとも何の支障もなく使用することができるものである。空間は低圧にした方が技術的にみて良いことは明らかであるにも拘わらず、技術的にみて殆ど意味のない加圧をわざわざ行うということは考えられないことである。したがつて被告装置においては、空間A、B及びCに圧力をかけることなく使用されているものとみるのが素直である。

2  被告装置の取扱説明書によれば、ポンプ装置の作動時に初めて低圧空気を充満する旨が記載されており通常時は空間A、B及びCは大気圧となつているので、本件発明の構成と同一である。

仮に「常に」或は「常時」を被告主張のように「少なくとも積荷が存在するとき」というように解するならば、取扱方法の項にそのような取扱手順を明記すべきであるし、また航海中にも圧力計を監視し、封入圧力の低下を防止する取扱手順を記載すべきであるにも拘わらず、そのような記載は一切ない。したがつて、そのような取扱は実際に行われていないのであつて、被告装置においては、液体貨物を積込み始めた時点では加圧していないことを意味するのである。

3  被告装置において、ポンプ作動時にはシール面に遠心力が作用するので、空間Cの圧力は流体貨物または駆動媒質の圧力より低圧となつている。これによつて、空間Cの漏液は圧力差により流体貨物または駆動媒質側へ漏れ出ることはないのである。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因1、2、3の(一)、4記載の事実については当事者間に争いはない。

二  そこで、被告装置が本件発明の技術範囲に属するか否かについて検討する。

1  本件発明の構成要件(6)(イ)について対比することにする。

本件発明の構成要件(6)(イ)は、「前記地帯は、前記駆動媒質及び流体貨物の圧力よりも低圧であつてかつ前記圧力差の結果として前記駆動媒質もしくは流体貨物の生じ得べき漏れ分をすべて受けるようにされる」という構成を示している。

まず、右構成における、「地帯」を低圧に保つ時的間隔についてみてみる。

成立に争いのない甲第一号証(本件特許公報)によれば、本件明細書中には、前記「地帯」を低圧に保つ時的間隔について格別限定はないこと、及び本件発明の目的からみて、ポンプが作動していると否とにかかわらず、汚染を防止する必要があることに照らすならば、本件構成要件(6)(イ)において、積荷の存在する限り、常に右「地帯」を低圧に保つ必要があると解するのが相当である。

そこで、被告装置が本件発明の構成要件(6)(イ)にいう「地帯」を常に駆動媒質及び流体賃物のいずれの圧力よりも低圧状態に保つものであるか否かについて検討していくことにする(なお、弁論の全趣旨によれば、被告装置の空間A、B及びCが本件発明の構成要件(6)(イ)にいう「地帯」に該当することは明らかである。)。

成立に争いのない乙第一号証、証人福田徹也の証言により成立の認められる乙第二、第三号証及び同証人の証言によれば次の各事実が認められる。

(一)  被告装置は、化学薬品や石油精製品を運搬するために運航しているケミカルタンカーの積荷の荷揚用に使用されている、サブマージドカーゴポンプと呼ばれるポンプ装置の一種である。一般にこのようなポンプ装置の製造は、注文主である造船所から依頼をうけてから製造を始め、メーカーが納めたものを造船所が船舶に据え付けて、メーカー立会いのもとに引渡す取引形態がとられている。更に、引渡の際には、メーカーが直接、使用者(最終的な注文主)に対して、説明、指導を行つている。

ところで、被告においては、被告装置の引渡にあたり、二人以上の説明員により、一週間ないし一〇日の期間を費やして、細部を現実に操作しながら説明、指導をしており、その際、被告作成にかかる取扱説明書を示して、同説明書記載どおりの説明を行つている。

(二)  ところで被告装置の右取扱説明書には、「ポンプ内封入空気(又はガス)」の項に、「保護管、モーターカバーの中の空間には、常に周囲圧力より高い圧力で最大圧力二・五Kgf/cm2の空気又はイナートガスを充満しておく」との記載が、また「封入空気の目的」の項に、「この空間には、常時周囲圧力より高圧力の空気(又は、イナートガス)を封入している為、保護管、モーターカバー等のフランジ面にシール不良が生じても、空間内圧が外部静水圧より高い為、各部フランジからの液漏れはありません。」との記載がされている。

(三)  更にまた、被告装置の圧搾空気制御系統図には、三Kgf/cm2の封入圧力を確認することができる圧力計が設けられている旨、また前記取扱説明書には、甲板上の戻り管に設置された圧力計をみれば、空間A、B及びCの気密性を確認することができる旨の各記載がされている。

(四)  他方、ポンプ不作動時における駆動媒質の圧力は、大気圧に駆動媒質の静水圧を加えたものであつて最大約二・三Kgf/cm2であり、また流体貨物の圧力は、大気圧に流体貨物の静水圧を加えたものでありやはり最大約二・三Kgf/cm2である。

右認定した事実によれば、被告装置における空間A、B及びCには常に駆動媒質及び流体貨物より高い圧力の空気またはイナートガスを封入して使用され、これにより油及び生積荷が空間A、B及びCへの侵入を防止しているとみられるので、本件発明が「地帯」の圧力を駆動媒質及び流体貨物のいずれよりも低圧にすることにより、生じ得べき漏れ分をすべて受け入れるという構成とは、その構成を異にするということができる。

2  ところで原告は、前記取扱説明書には、船舶が目的地に寄港して液体貨物を陸揚する際のポンプ取扱手順を記した箇所において、低圧空気管の入口弁を開いて加圧する趣旨が記載されていることからすると、出発地において液体貨物を積込む時点では、低圧空気管の入口弁は閉じられたままで、自的地においてポンプを作動するときに始めて入口弁を開くもの一と考えるのが素直な読み方でみると主張する。

しかしながら、前記取扱説明書には、「常に」或は、「常時」低圧空気またはイナートガスを充填しておく旨が記載されていることや、証人福田の証言によれば、液体貨物を出発地において積込み始めた時点から到着地において右貨物の陸揚を完了するときまでの間、継続的に、加圧を行うよう説明、指導していたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はなく、そうすると原告の右主張は採ることができない。

更に、原告は、被告装置において、ポンプ作動時にシール面に遠心力が作用するので、空間Cの圧力は流体貨物または駆動媒質の圧力より低圧となつている旨指摘する。

しかしながら、前示のごとく、本件発明の構成要件(6)(イ)の「地帯」は、ポンプが作動していると否とにかかわらず、常に駆動媒質及び流体貨物の圧力よりも低圧に保つ必要があるものと解するのが相当であるので、原告の右指摘は当を得ていないものであるのみならず、原告は被告装置のメカニカルシール15、16部分の遠心力による影響力がどの程度であるかにつきなんら具体的に主張、立証していないので、採用することはできない。

3  以上のとおりであつて、被告装置は、本件発明の構成要件(6)(イ)を充足しないから、その余の点につい判断するまでもなく本件発明の技術的範囲に属さない。

三  よつて、被告装置が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 飯村敏明 裁判官 富岡英次)

目録

別紙図面に示し左に説明する構造を有するポンプ装置

一、 図面の説明

第一図はポンプ装置部分の縦断面図

第二図はポンプ装置の全体的構造を示す正面図

第三図はポンプ装置の全体的構造を示す断面図

二、 図面符号の説明

1 上部ケーシング

2 油圧モーター

3 保護管

4 高圧作動油送給管

5 油戻り管

6 第一ドレン管

7 第二ドレン管

8 ベアリングハウジング

9 上部ベアリング

10 下部ベアリング

11 中間部ケーシング

12 開孔

13 下部ケーシング

14 Oリング

15 メカニカルシール

16 メカニカルシール

17 空気管

18 第三ドレン管

19 ポンプ室

20 インペラ

21 ポンプ軸

22 吐出管

23 第四ドレン管

24 モーターフレーム

25 連結管

A 保護管3及び上部ケーシング1内の空間

B ベアリングハウジング8と中間部ケーシング11との空間

C Oリング14及びメカニカルシール15、16により密封された下部ケーシング内の空間

D 下部ケーシング13とポンプ19との間にある空間

三、 構造の説明

(一) 上部ケーシング1の下部にパツキングを介して、ベアリングハウジング8が液密に連結され、該ハウジング8を囲繞して中間部ケーシング11が液密に取付けられている。ベアリングハウジング8の下部にさらに下部ケーシング13が連結されており、下部ケーシング13の下部にはポンプ室19が連結されている。

(二) 上部ケーシング1は、モーターフレーム24に支持された油圧モーター2を内装すると共に、油圧モーター2の高圧作動油送給管4、汕戻り管5、第一ドレン管6、第二ドレン管7を内装した保護管3の下部にパツキングを介して液密に連結されており、該保護管3および上部ケーシング1の内部は空間Aを形成している。該保護管3は、その上端部に設けられた連結管25を介して、船内に配管された圧力空気供給管又はイナートガス供給管(いずれも図示せず)に連結されている。油圧モーター2には第四ドレン管23が接続されている。

(三) ベアリングハウジング8は上部および下部の各ボールベアリング9、10を備え、油圧モーター2に接続したポンプ軸21を支承している。ベアリングハウジング8と中間部ケーシング11との間には空間Bが形成されており、空間Bは該ハウジング8の上部に設けた開孔12を介して前記空間Aと連通している。

(四) 下部ケーシング13の内部は、その上部を0リング14およびメカニカルシール15により密封され、下部をメカニカルシール16により密封された空間Cを形成し、その底部には第三ドレン管18が接続されている。空間Cは、前記空間Bより延びる空気管17により空間Bと連通している。

(五) ポンプ室19はインペラ20を内装し、該インペラ20は下部ケーシング13を貫通し、上部および下部の各メカニカルシール15、16を経るポンプ軸21にキー止めされている。又ポンプ室19と下部ケーシング13との間には空間Dが形成されており、空間Dの一部分は開放されている。

(六) 第一ドレン管6の先端は甲板上の油タンクに導かれており、第二ドレン管7および第三ドレン管18の各先端はいずれも甲板上に導かれ開放されている。第四ドレン管23の先端は下部ベアリング10および上部メカニカルシール15の部分に導かれている。第三ドレン管18には圧力計が設置され、各空間A、B、C内の封入圧力を検知し得るようになつている。

(七) 吐出管22は保護管3、上部ケーシング1、中間部ケーシング11、下部ケーシング13と並立し、底部はポンプ室19に連結されると共に、その先端は甲板上に導かれている。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

〈51〉Int.Cl. F 04 d 〈52〉日本分類 63(3)B 102 63(3)B 131 63(3)B 18 日本国特許庁 〈11〉特許出願公告

昭46-21541

〈10〉特許公報

〈41〉公告 昭和46年(1971)6月18日

発明の数 1

〈54〉ポンプ装置

〈21〉特願 昭43-75343

〈22〉出願 昭43(1968)10月17日

優先権主張 〈32〉1967年10月18日〈33〉ノルウエー国〈31〉170172

〈72〉発明者 フランク・モーン

ノルウエー国フアナ・クラーケネス・ストロームメペイエン55

〈71〉出願人 パテンツ・エンド・デペロープメンツ・エー/エス

ノルウエー国フアナ・ヘルダール

代理人 弁理士 猪股清 外2名

図面の簡単な説明

第1図は本発明によるポンプを用いたポンプ装置の立面図、第2図は第1図の装置の側面図、第3図は第2図のⅢ-Ⅲ線に沿う断面図、第4図は第1図によるポンプ装置の下部の拡大垂直断面図、第5図は第4図の細部である。

発明の詳細な説明

本発明は、水力モータによつて駆動軸を介して作動されるポンプ装置、特に船舶の液体貨物のなかに浸けまたこの貨物を送るためのポンプ装置に関する。

一般に、使用中のポンプの駆動軸について充分に満足な密封を行うことは困難である。実際において、ポンプの操作中、過熱、摩損、密封檢索の破損その他の結果、遅かれはやかれ一箇所または一箇所以上の大きな漏れが生じるものと考えたければならない。したがつて、漏れのたい密封を保証することは困難である。

このようなポンプのばあい、(a)、汲み上げられる液体貨物を駆動軸の軸受けから完全に分離すること、および(b)モータの駆動媒質とその軸受けの潤滑媒質を液体貨物から完全に分離することが望ましくあるいは必要であることがわかつた。

従来用いられていたすぐれたポンプ装置は、通常の吸い上げポンプを備えた数個のポンプ室から成り、このポンプ室から吸い上げ導管網が各タンクに延びている。たとえば、溶剤輸送タンカーは30~40のタンクを持つことがある。これらの貨物をすべて1つまたは1つ以上のポンプ室に送るばあいの問題点は非常に多い。ポンプと弁の誤つた操作によつてこれらの貨物を混合し、したがつて2、3秒の間に非常に高価な貨物の大部分が破壊されまた汚染される可能性がある。有毒液体がタンクのなかに含まれているばあいには、ガスの漏れを避けることが大切である。2、3のポンプが集中室で用いられるばあい、あるいはタンクのなかに浸けられたポンプの駆動媒質がたとえば機械室中の蒸気系と接触しあるいは貨物と混合する可能性があるばあいには危険は特に大きくなる。飲料水タンクが蒸気系の貯水タンクと接触すれば乗組員に危険を及ぼすことになる。弁のスピンドルおよびパツキンを通して液体もしくは蒸気が漏れてポンプ室のなかにたまるにいたり、危険な地帯を作ることになる。さらにまた、粘性の液体を汲み上げるばあいに長い吸い上げパイプを用いることにともなう2、3の問題がある。この粘性液は、パイプと弁が充分の寸法を有し、密封され、またできるだけ彎曲部が少ないものでなければ、ポンプまで流れないからである。このため高価で場所をとる装置が必要になる。最後に、1つまたは1つ以上のポンプ室の占める“死空間”が、タンクの建設費の増加に加えて、タンク容積を犠牲にすることになる。

今日ある程度用いられているもう1つのポンプ装置は、ポンプを各タンクのなかに浸け、またデツキ上の駆動源からタンク底部のポンプまで10~20メートルの長さの軸を用いる機械的伝動手段から成つている。この装置は、貨物をポンプに送るのに有効であり、またべつのポンプ室を用いる必要がないので、貨物の混合が避けられる。しかしながら、この装置は前述の装置ほどには用いられていない。多くのべつべつの軸受部分を有する長い軸を用いるばあいに、過熱とこれにともなう爆発の危険がある。長い軸が軸受により1つまたは多数の隔壁のなかに、またはこれに当接して支承されているため、船舶が“生きている”のでねじれが生じる。隣のタンクが一杯であるか、満ちているか、あるいはからであるかにしたがつて隔壁の上に外向きまたは内向きのふくらみが生じる。その結果軸受および(または)軸が破損して、過熱とポンプの漏れと、貨物および潤滑媒質の混合が生じる。

また、貨物によつて潤滑される軸受けを用いることが提案されている。このばあい貨物はパイプを通して送られこのパイプが軸と軸受けを取り囲むようにする。このような目的に適した貨物は小数であり、したがつてこのような方法がとりうる二、三のばあいでも、特にタンクがからになつてもポンプがただちに止められず軸受けが二、三分で乾燥するばあい、爆発の危険性がたえずあるので、この方法は満足とは言えない。タンクをからにする際に、ポンプの取り入れ口が異物、たとえばほろぎれによつてふさがつたときにも同様の爆発の危険性がある。

前記の3つのポンプ装置のどれも実際上満足なものはない。なんとなれば、これらのポンプ装置は、貨物とポンプ装置に対する損傷の危険は言うまでもなく、乗組員と船の安全についても相当な危険を有するからである。

本発明によれば、船の液体貨物のなかに浸けて液体貨物を送るためのポンプ装置において、比較的短い駆動軸によつて回転子手段に連接されたモータの駆動媒質と吸い上げられる流体媒質とが1つの地帯によつて分離され、この地帯のなかの圧力は2つの媒質のいずれの圧力よりも低くし、またこの地帯は前記の圧力差の結果として前記2つの媒質の漏れ分を受けることができるようにした水力モータと、前記漏れ分を前記地帯から除去することを制御するための手段とを含むポンプ装置が提供される。

望むらくは、前記の漏れ量除去手段は遠隔操縦されるようにする。

望むらくは、この地帯は駆動軸の大部分と、水力モータの全部を囲むようにする。この装置の主たる効果は、モータの駆動媒質を、汲み上げられる流体媒質から分離絶縁し、またその逆を行うことにある。このようにして、この構造の第1の目的は、モータの駆動媒質によつて汲み上げられるポンプ媒質が汚染されるのを防ぐことにある。

同様にポンプ媒質によつて駆動媒質が汚染されるのを防ぐのを目的としている。この構造のもう1つの目的は、駆動媒質とポンプ媒質との間の伝熱を防ぎまたは制御することにある。

前記の地帯は、排出室と減圧通路とを含み、この減圧通路の一端は大気に通じ、またその他端は前記の排出室に連結しており、この排出室は第1および第2パツキンの間に位置し、これらのパツキンは回転子とモータとの間において駆動軸の上に配置されており、この第1パツキン手段は流体ポンプ媒質の密封機素を成し、第2パツキン手段はモータの駆動媒質に対する密封機素を成している。

前記の減圧通路の主たる目的は、駆動媒質とポンプ媒質が相互に汚染する危険を完全最小にさせるにある。これは、前記通路の一端を大気と連結し、他端を排出室と連結させることにより達成される。前記の減圧通路のもう1つの目的は、駆動手段のための、特に駆動媒質のための通気系統を成すことにある。すなわちポンプ媒質の温度から独立しかつ特有な駆動媒質の温度を調整しまたは保持するために、前記減圧通路と前記排出室を含む前記地帯中に温度制御媒質(例えば空気、ガス)を循環させることのできる構造を成すことにある。あるばあいにおいては、ポンプ媒質は、駆動媒質の温度よりも相当に低い温度を有する液体ガス(低圧ガス)であり、他のばあいにおいては、ポンプ媒質は駆動媒質の温度よりも高い温度を有する加熱重油あるいは加熱糖ミツである。いずれのばあいにも、この地帯と、この地帯を取り囲むポンプ媒質とによつて囲まれた駆動媒質の温度を保守調整することを目的としている。

排出室、減圧通路およびこれと関連する漏れ分除去手段すなわち吸い上げ装置を用いて、第1組のパツキンから漏れ分が第2組のパツキンを通り過ぎる前にこれを捕集して排出することが可能になる。

駆動軸の載置は水力モータから排出油のなかを延び、この際に排出室は第1導管を通して大気圧と連絡し、またエゼクター機構と連接した第2導管な介して適当な排出場所と連結しているのが望ましい。

排出室の一方の側におけるポンプ媒質の圧力と、排出室の他方の側における排出油の圧力と、排出室が大気圧と連絡していることとの関係から、第1組のパツキンと第2組のパツキンをそれぞれ超えて排出室のなかに進めば圧力の低下が見られ、このようにして漏れ分は排出室の内部には入ることができるが、その反対方向には進み得ない。

排出室が大気圧と連絡している結果、エゼクター機構に連絡した導管を介しての排出流体の排出は、排出室中の制御された圧力条件で行われ、したがつて前記の排出は排出室に対する漏れに影響することはない。

駆動媒質とポンプ媒質の間の地帯は、低伝熱性ガス、冷却空気、加熱空気、蒸気その他適当な媒質から選らばれた温度制御媒質の供給媒質と連絡して、この地帯のなかに希望の温度水準を保持するようにする。また前記のエゼクター機構は、この地帯に前記の温度制御媒質を送るための通気系において用いることもできる。

以下本発明を図面に示す実施例によつて詳細に説明する。

第1図と第2図に示すポンプ装置は、“パーセルタンカー”型のタンカー、すなわちべつべつの船倉のなかに各種の貨物を入れて輪送しまた各タンクのなかに1つのポンプを用いるようにしたタンカーにおいて用いるために特に案出されたものである。しかしながら図に示すポンプはまた、通常のタンカーにおいて、あるいはまたこの種のポンプの必要な他の種類の船舶についても用いることができる。なんとなれば、このポンプ装置は、貨物油、溶剤、糖ミツのごとき任意の液体を汲み上げるためのものだからである。本発明によるポンプにおいでは、その駆動機構に対するまたこの駆動機構からの漏れの可能性をなくし、このようにして第1に、ポンプの駆動機構から出た異物によつてポンプで汲み上げられる媒質が汚染されることを防ぎ、第2にポンプ駆動機構のなかへ活性ポンプ媒質が入ることを防ぐために特別の注意が払われている。

第1図と第2図において、ポンプはハウジング10のなかにあり、このハウジング10は船のタンク13の底部12のくぼみ11のなかに載置されており、したがつてポンプはタンク13のなかのポンプ媒質のなかに浸けられ、このポンプを用いる時間中、タンク内の液体の高さに従つて一定の静的送り圧が伝達される。このようにして粘性ポンプ媒質および揮発しやすいポンプ媒質のばあいにも、ポンプは正しい位置におかれる。ポンプの駆動軸14は垂直に配置されており、またポンプの入口15はポンプの下端におかれて、またくぼみ11の底部に向かつて下方に向けられ、このくぼみ底部のすぐ上にある。ポンプの出口16はまずポンプから横方向に外側に出て、つぎに上方に向かい、垂直に延びる圧力管17と連絡している。圧力管17は、船のタンクの上部のハツチに固着した除去可能ハツチカバー19を通過して、このハツチカバー上方において、輸送管21によつて排出位置(図示せず)に連絡している。ポンプハウジング10は、ハウジング第1部分22、第2部分23およびパイプ24によつて支承されている。パイプ24はポンプ軸14と同心的に走り、垂直に上方に、ユニオン継手25を介してハツチカバー19を通過している。

第1図および第2図に示すポンプおよびポンプ装置は、工場から、容易に組立られるセットして送られる。このようにして、ポンプハウジング10、圧力管17、ハウジング部分22、23およびパイプ24を連接して組立体を作る。圧力管17とパイプ24は、案内シュー26、27を用いて、高さの方向に適当な間隔をおいて固着されている。これらの案内シューはレール28、29上を垂直に移動することができ、これらのレール28、29はタンク壁30に固着している。ハツチカバー19を除去したのちに、部品10、17、22、23、24から成る組立体を、船上の可動クレーンまたは持ち上げホースを用いて、あるいは陸上のクレーンを用いて、対応のハツチを通して持ち上げ、また対応のハツチからタンクのなかに降ろして位置づけることができる。このようにして、ポンプ組立体全体を、もし望むならばこれが貨物のたかに浸つている間に持ち上げて出すことができ、修善、検査または部品の取り替えに特別の困難をともなうことなく、そののちふたたびタンクのなかに入れて作業位置につけることができる。

ポンプの回転子(第4図)は比較的短い駆動軸14によつて高圧水力モータ33に連接しているので、回転子32と駆動モータ33の比較的小型の組立体が作られる。このような構造は操作技術上の二、三の利点を与えるが、同時に、駆動モータ33、駆動軸14の軸受34-36、および駆動モータの圧力液体循環回路37-38をタンク中のポンプ媒質から保護するという問題が生じる。駆動モータの圧力液体循環回路は、送りパイプ37がたとえば150kg/cm2の圧力でモータ33に対して圧力油をもたらし、このパイプ37は戻しパイプ38のなかに受けられ、この戻しパイプ38のなかの油圧はたとえば1.5~2kg/cm2とする。万一圧力油がなんらかの原因でパイプ37からパイプ38おなかに漏れても、このために障害は生じない。また戻しパイプ38はパイプ24のなかに受けられており、このパイプ24は、パイプ38(および37)ならびに後述のその他の管の保護管を成しているので、パイプ38から漏れた液はパイプ24のなかに捕集される。圧力油による貨物の汚染をさけなければならないようなばあいには、このような安全装置は大きな意義を有する。このようにして貨物の中への漏れが防せがれるだけではなく、さらに種々の導管は衝撃および動揺、腐蝕性の貨物流体による腐蝕、このような貨物流体が圧力油のなかに浸入することを防がれる。ハツチカバー19の上には(第1図)弁43を介して圧力油循環回路41-42への連接が行われ、弁43は、回路37、38を締め切るためのパイパス弁44を有している。

第4図においては、第1図および第2図に示すポンプ装置の細部が示されている。

ポンプは通常の遠心ポンプであつて、ポンプ回転子32を含み、この回転子32はポンプ室45のなかに受けられ、このポンプ室45は3つのハウジング部分17a、17b、17cの間に作られており、また回転子はパツキン46~48によつてポンプハウジング10に対して密封されている。ポンプハウジング10のすぐ上には、ハウジング部分22のなかに室49が作られ、この室49はタンク中のポンプ媒質と開口50(第1図)を介して連絡しているので、この室49のなかには静的流体圧があり、この室49は第1組のパツキン51、52の前において軸14を取り囲んでいる。これらのパツキン51、52は軸受台53aの上に駆動軸を密封している。パツキン51、52とその上方にあるもう一組のパツキン53、54の間には、金属の支承環55aがあり、この環は放射方向開口55bを有し、また環55aと軸14およびパツキン52と53との間には、排出室55が作られ、これについては、他の部品を述べたのちに述べる。

ハウジング部分22の内側に突き出たつば部分56と軸受台53aとの間に、パイプ型の文承部材57が固着しこの支承部材は駆動軸14の軸受34~36を担持している。つば部分56は駆動モータ33を担持し、またこの駆動モータの下側と軸受台53aの上側との間には、支承管57の内部に、支承室58が作られ、この支承室は駆動モータ33の回範からきた圧力油を含む。59aは駆動モータ33から出た戻り油用の自由にかつ外方に向つて開いている主出口であり、また、59は駆動モータから出た排出管である。

管59はつば部分56中のみぞ60と、支承部材57中のみぞ61および短管62を経由して、支承室58の下部と連絡している。室58の上部において、みぞ63が油排出室64を連絡している。この室64はハウジング部分65のなかに形成されており、この部分65は駆動モータ33を自由に取り囲み、また上方において圧力油回路の戻し管38と連絡している。駆動モータからの主出口59aは室64に向かつて自主に開口し、油は管38を経由してそこへ導入される。前記の駆動モータ、またはその導管37、59のなかにおいて漏れが生じたばあい、この漏れた液体は室64のなかにとらえられ、障害を生じることなく、管38を通して、残りの戻り油とともに排出される。66はすべり弁であつて、このすべり弁はハムジング部分22のなかの室49から、開口50を通して制御される(第1図)。すべり弁66は必要なばあいに、みぞ67を介して、ハウジング部分65中の室64と直接に連絡することにより、導管59から排出される油の適当量を調節し、このようにして一定量の油を通路60~63を迂回させ、室64に直接送ることができる。ポンプ回転子、軸、軸受、パツキンその他の修理または検査を行うばあいには、通路60~63全部を閉じることもできる。しかしながら通路60~63は操作に際して室58のなかにおいて活発な油の循環が行われるだけの油の量を供給され、このようにして軸受34~36の充分な潤滑を行うことができる。ハウジング部分23は上方において保護パイプ24を介して大気圧と連絡し、またそのなかに自由に載置されたハウジング部分65を取囲み、このようにしてハウジング部分23と65と、つば部分56へのその連接部との間に保護室88が作られる。ハウジング部23は、ハウジング部分22に固着しており、下方において、下に延びる連絡パイプ69と水平みぞ70を介して、軸14上の2組のパツキング51、52、53、54の間の排出室55と連絡し、この排出室55はまた大気と連絡している。このようにして、パツキンの各組を介して排出室55に対する圧力のある程度の低下が行われ、また、1組のパツキン51、52の反対側には、タンク13中の液体の高さによる一定の静圧が生じ、これに対して他の組のパツキン53、54の反対側には、排出油の圧力に対した圧力が生じる。このような流体圧がそれぞれ障壁を成し、したがつて排出室55から各組のパツキングを通して液体が漏れることがさけられる。もしパツキン51、52または53、54を通して室55に対して漏れが生じたばあい、室55中の圧力は、この室から隣接パツキンを通して漏れが生じないように常に非常に低く保持することができる。液体がバツキン51、52または53、54から来るにせよ、あるいはまたポンプ媒質の漏れ分であれ、あるいは室68のなかに導入された圧力油であれ、室55中の漏れ分を観測して、この室55のなかと連絡管70、69、68の近くに集められた液体を除去することができるようにするため、液体排出用吸い上げ装置を備える。71は大体垂直におかれた吸い上げパイプであつて、この下端72は斜めに切られて、管69の下端においてみぞ70の底部に入つている。吸い上げパイプ71は上方の室68中においてエゼクタパイプ72端に連絡しこのエゼクタパイプは、他端が排出管74と結合している7~10kg/cm2の圧力の空気または蒸気の送りパイプ73を受けとめている。この排出装置は適当な遠隔制御装置によつて間欠的に作動することができる。またたとえばポンプを手動するに先立つて、エゼクタ機構を作動して、残つた液体な排出することができる。適当な装置(図示せず)によつて、排出液をエゼクター機構から捕集して漏れ液の量を計量することができる。排出室55または近くの連絡管のなかに漏れた液体を検査することによつて漏れの源および位置がただちに修理を必要とするかいなかのすばやい決定をすることができる。

第3図に見られるように、エゼクター機構の送り管と排出管または保護パイプ24のなかに保護されているので、73、74のなかで漏れが生じても、貨物またはポンプの駆動機構に対して損害を生じない。図の構造においては、駆動モータ、対応の圧力油導管およびエゼクター機構は有効に包みこまれている。さらにまたポンプの駆動軸を特別に密封することと対応の排出装置により、漏れた液体を常に発見して排出することのできる信頼できる密封装置が提供される。

また前記駆動モータは、水力モータであるので電気モータに比し小型であり、かつ、爆発の危険がない。このようにして、損傷を生じることなくいわゆる任意のポンプ媒質のなかに浸けることのできるポンプ装置が得られる。

本発明の実施の態様をまとめて説明すればつぎのとおりである。

(1) 特許請求の範囲によるポンプ装置において、前記の漏れ分除去手段は遠隔制御されるようにしたポンプ装置。

(2) 特許請求の範囲または前項(1)によるポンプ装置において、前記の地帯は駆動軸の大部分と水力モータの全部を取り囲むようにしたポンプ装置。

(3) 特許請求の範囲による装置において、水力モータの一部を成す供給導管および排出管ならびに前記の漏れ分除去手段がその地帯のたかに受けられているようにしたポンプ装置。

(4) 特許請求の範囲、前項(1)~(3)のいずれかにるポンプ装置において、前記の漏れ分除去手段は圧力駆動エゼクター機構を含み、このエゼクター機構はエゼクターパイプを有し、このエゼクターパイプはその両端に送り管と排出管とを有し、送り管に連接した末端はまた吸い上げパイプに連接し、この吸い上げパイプの取り入れ口は排出室の水準に位置しているようにしたポンプ装置。

(5) 特許請求の範囲、前項(3)、(4)のいずれかによるポンプ装置において、駆動媒質の間の地帯は、低位熱性ガス、冷却空気、加熱空気、蒸気その他適当な媒質から選ばれた温度制御媒質の供給装置と連絡して、この地帯内部において希望の温度水準な保持するようにしたポンプ装置。

(6) 前項(3)と(5)によるポンプ装置において、水力モータの一部を成すモータ供給導管はモータ排出導管の内側に受けられ、モータ排出導管は、水力モータのハウジング室と連絡し、供給導管を取り囲む低熱保護体および圧力保護体を成しているようにしたポンプ装置。

(7) 前項(6)によるポンプ装置において、駆動軸の軸受が載置されているモータと第2パツキングの間の地帯において駆動軸はモータから出た油のなかを通過し、前記油は、モータと排出導管の間の通路を通してこの地帯のなかに強制的に送られて、このようにして前記軸受を潤滑するようにしたポンプ装置。

(8) 注入される流体ポンプ媒質の方に向かつてまたこれから離れるように垂直移動するように載置された特許請求の範囲、前項(1)~(7)のいずれかによるポンプ装置。

(9) 図1~5について述べたごとき構造、配置の、また使用に適したポンプ装置。

特許請求の範囲

1 船の流体貨物のなかに設けて、これを送るためのポンプ装置において、水力モータと、回転子と、前記水力モータと回転子とを連結する比較的短い駆動軸と、前記回転子の運動により吐出される流体貨物を船の甲板に導く導管と、前記流体貨物と流体モータの駆動媒質を確実に分離する地帯とを有してなり、前記地帯は前記駆動媒質および流体貨物の圧力よりも低圧であつてかつ前記圧力差の結果として前記媒質もしくは流体貨物の生じ得べき漏れ分をすべて受けるようにされるとともにその漏れ分の除去を制御する手段を備え、また前記地帯は、排出室と一端がこの排出室に他端が大気に連通する減圧通路とを含み、前記排出室は、回転子とモータとの間において駆動軸上に配置された第1組のパツキンおよび第2組のパツキンの間におかれ、第1組のパツキンは流体ポンプ媒質に対する密封機素を成し、第2パツキンは駆動媒質に対する密封機素をなすようにしたポンプ装置。

FIG.1

〈省略〉

FIG.2

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FIG.3

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FIG.4

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FIG.5

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特許公報

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